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第1章:Flashの灰の中から

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第1章

Flashの灰の中から:HaxeとHaxeFlixelの創生

1 Flashの黄金時代とFlixelの誕生

2000年代後半、インディーゲームの世界はAdobe Flashによって大きな変革を遂げました。その中心にあったフレームワークの一つが、Adam 'Atomic' Saltsman氏によって開発されたActionScript 3 (AS3) ベースのFlixelです。

🎮 象徴的な成功例:Canabalt

Flixelの力を示す象徴的な例が、無限ランナーゲームのジャンルを確立したとも言われる『Canabalt』です。このゲームは、Flixelのシンプルさと迅速な開発を可能にする設計思想を体現していました。

Canabaltをプレイする

Flixelは、開発者が複雑な低レベルの処理から解放され、ゲームの創造的な側面に集中できる環境を提供し、Flashインディーゲームブームの礎を築いたのです。

2 基盤の亀裂:Adobeエコシステムの限界

その栄光にもかかわらず、Adobe FlashおよびAIRプラットフォームは、開発者にとって無視できないいくつかの深刻な制約を抱えていました。これらの制約が、後にHaxeエコシステムへの移行を促す原動力となります。

技術的制約

Flash PlayerやAIRは仮想マシン(VM)上で動作するため、ネイティブコードと比較してパフォーマンスのオーバーヘッドを伴いました。特にモバイルデバイスでの制約が顕著でした。

ビジネス制約

Adobeのツールはプロプライエタリ(独占的)であり、開発者は単一ベンダーの「壁に囲まれた庭」での活動を余儀なくされていました。

💥 決定打:AppleのFlash排除

AppleがiOSデバイスでFlashをサポートしないという決定を下したことにより、Flashで開発されたコンテンツは急成長するモバイル市場から事実上締め出されました。多くの開発者が自らのコードベースとキャリアの将来に深刻な危機感を抱くことになったのです。

3 新時代の新言語:Haxeのビジョン

このような状況下で、Flashエコシステムの限界を克服するための解決策として登場したのが、Haxeという言語とツールキットです。

👨‍💻 開発者の背景

HaxeはActionScript 2(AS2)向けのオープンソースコンパイラとして高い評価を得ていたMTASCの開発者、Nicolas Cannasse氏によって創始されました。この出自は、HaxeがFlash開発者が直面していた問題を深く理解した上で設計されたことを示唆しています。

🔄 クロスコンパイルの革命

Haxeの核となる設計思想は、単一のコードベースから複数のプラットフォームへネイティブコードを生成する「クロスコンパイル」にあります。

🌐
JavaScript
ブラウザ
C++
ネイティブ
Java
JVM
🔧
Neko VM
軽量VM

🚀 Haxeの技術的進歩

  • ✓ 静的型付けによるコンパイル時エラー検出
  • ✓ 型推論による開発効率向上
  • ✓ デッドコード除去(DCE)による最適化
  • ✓ オープンソースによる自由度

4 統合:HaxeFlixelとOpenFLの力

HaxeFlixelは、オリジナルのFlixelの自然な進化形として誕生しました。これは単なる言語の移植ではなく、Flixelの直感的で使いやすいAPIと、Haxeの持つクロスプラットフォーム性能および将来性を融合させるという、再創造の試みでした。

🏗️ 階層型アーキテクチャ

4
HaxeFlixel
ゲーム開発特化フレームワーク
3
OpenFL
FlashディスプレイリストAPI再現
2
Lime
低レベル機能の抽象化
1
Haxe Toolkit
言語コンパイラと標準ライブラリ

🎯 HaxeFlixelの成果

この階層構造により、HaxeFlixelはオリジナルのFlixelと非常によく似た開発体験を提供しつつも、Adobeのプラットフォームへの依存から完全に脱却し、C++によるネイティブ実行などの高性能なターゲットへの扉を開くことに成功しました。

第1章のまとめ

HaxeFlixelは、多くの開発者に愛されたFlixelの生産性の高いゲーム制作APIと、Haxeオープンソースエコシステムがもたらすパフォーマンス、自由、そして未来への持続可能性という、両者の長所を兼ね備えたフレームワークなのです。

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